さとえブログ

ノンフィクション/エモい/現代っ子哲学

Tinderで出会った女子大学生に惚れかけた話

2020年3月

 

コロナウイルスが広まって世間が完全自粛ムードの中、在宅ワークで暇だったこともあり、tinderを回していた。

 

だが、マッチしても

『今はコロナだから、、』

とか言われて中々会うまでに至らないというもどかしい季節が続いていた。

 

そんな中、一人の女の子とマッチした。

 

ヘアオイルでセットした感じの、ボブではないおかっぱ系の髪型(韓国ではタンバルモリという)のリップメイクが映えた子で、イメージはTwiceのモモからクールさを取り除いた感じ。かわいい。

 

「今何してるの」

 

『ともだちと飲んでる!』

 

「どこで飲んでるの」

 

『さいたま!』

 

こんな感じでバンバンとラリーが続くような子で、第一印象は少しアホっぽいのかな?と思った。

 

こういうタイプは正直苦手だが、とりあえず顔がタイプだったのでLINEを交換して電話をすることでどういう人間かを把握することにした。

 

すると、文面とは裏腹に話す声は落ち着いていた。本当にこの子が活発そうなテキストを打っているのか?と疑うほどに。

 

また、話しているうちにモモは来月から大学3年生で、俺の実家がある市に家族と一緒に住んでることが分かった。意外な共通点。

 

話した内容は、真面目な恋愛の内容と言った感じだった。最初はこちらが向こうをいじる感じで和み徐々に打ち解けていき、まずは元彼がどんな人なのかを深掘る。写真を見せてもらう。黒髪マッシュでピアスが開いておりラフなファッションをしている。典型的なカジュアル系クズ......。

 

元彼と別れた理由を聞き出すと、浮気されたとのこと。高校を卒業してすぐにモモは最初は遊びのつもりでマッチングアプリを始め、男と遊んでいたが、そのうちの一人とセックスしてからも遊ぶようになり、最終的にカラオケで告白されて付き合った。そして二年ほど経って一緒にスキー旅行に行った日のこと。元彼が席を外している間にふとスマホの通知が目に入る。マッチングアプリの通知だった。それを元彼に追求したところ浮気が発覚し、別れるに至ったと言う。

 

この子はクズにハマりやすいタイプなんだな、と文面から何となく察してはいたが、改めて確信に変わった。

 

となると、この子を落とすには俺もクズになりきって接していかなければならない。

 

女遊びしていることを包み隠さず、徐々に伝えていった。すると、案の定食いつきがみるみるうちに上がっていった。

 

ただ、この子は他の子とは違って長期戦になる予感がしていた。もう男遊びは一通り済んだと言っていたから。必然的に戦略は、俺のことを好きにさせること一択だと思った。

 

マッチして初めて通話したのが3月で、それから一日に一回くらいLINEして、途切れたら一週間に一回ほど長電話して、と言う要領で関係を進めていった。徐々に自分のことを好きになってきていると言う実感が得られた。

 

話した内容は、モモがBTSが好きなこと。忘れられない曲があること。琥珀色の街、上海蟹の朝という曲が好きなこと。淡々として落ち着いた雰囲気とは裏腹に感傷的なことが好きなこと。カラオケで女友達と男と3Pをしたことがあること。。正直少し嫉妬してしまった。

 

どこか俺に似ていた。

 

俺も自分が友達や家族にも話せないことを徐々に話していった。お互いに、仕事ともプライベートとも違った第三の場所という関係性で暗黙に合致していたように思う。俺も段々とモモとの電話が居場所になっていっていた。でも今思うと、俺はそれに気付いていなかった。

 

2020年5月

 

リモート飲みをしようとのことで酒を飲みながらLINE通話をした。俺はギルビーのウォッカ、モモは烏龍割り。

 

酒を飲んでいるうちにお互い酔ってきて、急遽会おうと言う話になった。22時。俺は終電でモモの最寄りに行くことにした。

 

本当に来るのか?と勘繰りつつ1時間ほど電車に揺られ、待ち合わせ場所に着く。エスカレーターからジャージを着た写真通りの女の子が登ってくる。モモだった。いや、写真よりも可愛かった。

 

深夜から公園で飲んだ。そこは、モモとの通話でも度々登場していた場所だった。よく地元の友達と飲んでいる公園だと言う。5月の夜にもかかわらず、寒かった。半袖を着たモモが終始寒がっていたのが印象に残っている。

 

話した内容は電話と変わりなかった。というか、もう色々と話しすぎていて新たに話す話題が見つからなかった。たどたどしくモモを抱きしめようとするとモモは嫌がった。

 

ガールズバーにいる客じゃんw』

 

今思えば押せばいけたのかもしれないが、俺は引いた。ここまで関係を築いてきたのに、壊すのが怖かった。と同時に、本当に気になっている相手に対してはうまく振る舞えないものだと再認識した。

 

女に対して、クズを振る舞えば食いつきが上がるのだが真面目に口説こうとすると大抵うまくいかない。力を入れすぎるとうまくいかず、適当にやると案外うまくいくというのは人生における大体の物事に対して言える。

 

結局、琥珀色の街、上海蟹の朝を流したりBTSのAutumn leavesを流したり、モモの前で他の女の子に電話をかけて嫉妬させようとしたり色々と空回りしてその日は始発で帰宅した。

 

公園から駅までの帰り道、俺は言葉をあまり交わすことができなかった。改札の前でモモのことを抱きしめてバイバイした。

 

帰りの電車の中、もう俺は無理だと思っていたのと、あまり依存したくなかったのでモモのラインをブロックした。しかし、何故かできなかった。ブロックボタンを押したのだが、通信環境が悪くて何故かできなかった。今日はとりあえず置いておいて翌日にブロックしようと思った。

 

すると、モモからLINEがきた。

 

『寒かったけど体調とか大丈夫?気をつけて帰ってね!』

 

死ぬほど嬉しかった。あ、まだあるんだ。感情を動かされて完全にクズ失格。

 

ここで速攻で返信しても気持ち悪いと思ったので、自分の最寄りに着いて駅を出る頃にあえて素っ気なく返す。

 

そこからまた前のようにLINEが続いていった。

 

コロナウイルスによる沈黙の夏が過ぎ、秋に入りコロナがひと段落したが俺はモモを誘わなかった。次会う時は前よりも自分を磨いて、カッコいい状態で会いたいと思っていたから。完全に空回りだった。

 

しかし、今思うとこれが案外うまく作用したように思う。

 

2020年11月

 

一通り自分磨きが完了したと感じた俺は、モモに一発本気の電話を入れようと思った。いつもみたいな第三の場としての電話でなく、普段初見の女に対して入れる本気の誘いの電話。適当なフリして実は緻密に計算された短い誘いの電話。あまり長く電話をすると冗長になって向こうの決断が遅くなる。

 

結果、誘いは成功した。11月某日に大宮駅で会うことになった。

 

2020年11月某日

 

19時、大宮駅の豆の木で待ち合わせた。豆の木といえば、埼玉県民御用達の待ち合わせ場所。俺もモモも埼玉出身だったため、よく分かっていた。高校の頃は狂ったように友達と豆の木で待ち合わせてゲーセンに行く生活をしていた。

 

豆の木の鏡で身なりを整えていると、後ろからモモが来ているのを認めた。モモは5月に会った時の通りだった。俺は自分に自信があった。というより、無理矢理でも自信を持っていかないと負ける気がしていたため、意地だった。これは普段の通話のような友達としてでなく一人の女に対しての本気のデート。ここで散っても構わなかった。散る自信は皆無だった。俺もここまで色々な経験を積んできた。

 

「よ、久しぶり」

 

慣れた手つきでモモの頭をポンっとする。拒否の言葉なし。今日は必ずいけると確信した。

 

それなら、相手にとって絶対に記憶に残る日にしようと思った。俺はさらに目標を上げた。

 

正直、大宮で女の子を持ち帰ったことはなかったため、俺は事前に店から店への導線、そしてホテルへのルートを死ぬ気で調べていた。俺ならいける。

 

一軒目はHUB東口店。

 

俺はジントニックで、モモにはこれがおすすめだよ、とソルティドッグを飲ませた。フチに付いた塩を舐めつつ飲むカクテル。モモは気に入っていた。

 

あたかもモモの過去を知らなかったかのように最近どう?とぶっこんでからの今まで付き合ってきた男の話に移行。モモはあまり喋るタイプではなかったのでこちらがひたすらに相槌を打ちつつ話させる。すると、少しずつモモが話すようになる。

 

二杯目、俺はシャンディガフでモモはチャイナブルー。いつの間にか話す割合はモモの方が多くなっていた。俺はその裏でひたすらに頭を回転させていた。話したいのは山々だったが、長引きすぎると二軒目に移行できないので二杯目を飲み終えてすぐに店を出る。物足りなさの演出。理論通りにいく。滞在時間は1時間ほどだった。

 

「なんか最近カラオケ行ってないから行きたいな」

 

ちゃんと一軒目でカラオケ関連の話をし、伏線を張っておいた。

 

スムーズに二軒目に移行。カラオケ歌広場南銀座店。

 

俺はこの場を特に思い出に残させたかった。そのため、早めに勝負をかけるのは違うと思い何曲か歌ってからにすることにした。

 

一曲目、愛のかたまりを歌う。あくまでも真面目でなく少しちゃかした雰囲気の感じで。

 

モモの番。何の曲を歌うんだろうか?

 

モモはaikoのもっとを入れた。

 

僕の前から消えた君の心が消えた
「あたしはねあなたの事が好きなんだよ」
信じてられた瞬間は ほんとに瞬間で
もっと もっと もっと もっと ねぇもっと
そばにいたかったんだ

 

誰に対して歌っているんだろう?元彼?気になった。

 

しかし、それ以上にモモは歌が上手かった。控えめだけど透き通った歌声。本気を出したら相当上手いだろう。そういえば、高校時代は箏曲部で大学はアカペラサークルに入っていたと言っていた。人間関係が原因で辞めてしまったらしいが。

 

気付いたら聴き入ってしまっていた。しかし、これは本気のデート。感情を挟むと上手くいかない。冷静に、冷静に。

 

二曲目。俺は赤西仁のEternalを歌う。十八番だった。この曲も本気で歌うと真面目感がでてしまうため、無難に歌う。最後の「今日もありがとう」という歌詞のところで声が裏返ってしまったが、これで雰囲気をしっぽりと、かつ明るくすることができた。運が良かった。

 

次に、モモが選んだ曲。あいみょんの今夜このまま。

 

今日は勝てると完全に確信した。

 

歌い終わったタイミングで

 

「なんか一緒に歌おうよw」

 

『何歌うの笑』

 

宇多田ヒカルとか歌える?」

 

『うん少しだけ』

 

「じゃあFirst loveでも歌うかw」

 

『えー、いいよ笑』

 

二人でFirst loveをユニゾンした。

 

これが本当に良かった。俺の低い声とモモの透き通った声が絶妙にマッチして、旋律の上に最高の音楽を生み出す。モモも感傷的になっていたように見えた。

 

歌い終わり、モモが飲み物に口をつける。判断力が鈍っているタイミングで顔を近づける。拒否なし。

 

唇を重ねる。

 

重ね返してくる。

 

とろけるようなキスをして、抱きしめる。5月に公園であれだけ拒否をしていたモモが身を委ねてくる。愛を感じた。

 

「そろそろ出よっか」

 

手を取ってホテルへとリードする。

 

『あの、これってどこに行くの?笑』

 

定番のグダり文句はこんな状況でも起こりうるのだと少し感心した。でも、俺はこれが建前だということが分かっている。積んできた経験が違う。

 

「そこだよ」

 

適当に流してホテルに入る。適当に部屋を選ぶ。空いててよかった。

 

部屋に入りドアを閉めた瞬間、抱きしめる。モモのマスクを取り、俺もマスクを取り、二回目のキスをする。モモの目はとろけていた。

 

アウターをハンガーにかけてあげ、照明を薄暗く調節する。いい感じに階段下の間接照明が室内を照らす。舞台装置は完璧だった。

 

ベッド横に連れて行き、立った状態で抱きしめ、キスをする。

 

ベッドに移動し、そのまま交わる。

 

全てが終わる。

 

ベッドでモモに腕枕をしながら話を聞いていると、どうやら俺に惚れたようだった。序盤とは違い、色々なことを話してくれる。

 

裏腹に、俺は気持ちが冷めかけていた。冷静に一人の女の子に接していたので完全に感情はなくなってしまっていた。クズで女慣れしている男を装ったことによって本心は消失してしまっていた。でも真面目にアプローチしていたらこうはならなかったんでしょ?口には出さなかった。もう心は何処かへ飛んで行ってしまっていたから。

 

「もうそろそろ終電があるから行かなきゃ」

 

モモは何かを察したようだった。

 

帰り際、モモは靴下を探していた。どうやら、脱いだ片方が見つからないみたいだった。

 

大宮駅の改札に一緒に入場する。

 

『私ホームまで見送るよ』

 

電車が来る。モモはなかなか繋いだ手を話してくれなかった。

 

「もう行くよ笑、今日はありがとね、バイバイ」

 

『うん、気をつけてね』

 

家に着くと、ポトンと何かが落ちてきた。

 

モモが探していた片方の靴下だった。俺の服のどこかに入ってしまっていたらしい。

 

モモに聞くと捨てていいとのことだったので、思い出が残ってしまわないうちに捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

2020年12月

 

それから、暫くお互いに連絡することはなかった。

 

ふと、モモのLINEプロフィールを見るとある曲が設定されていた。

 

宇多田ヒカルのTimeという曲だった。

 

 

カレシにも家族にも言えない
いろんなこと
あなたが聞いてくれたから
どんな孤独にも運命にも耐えられた

降り止まない雨に打たれて泣く私を
あなた以外の誰がいったい笑わせられるの?

いつも
近すぎて言えなかった、好きだと
時を戻す呪文を胸に今日も Go

キスとその少しだけ先まで
いったこともあったけど
恋愛なんかの枠に収まる二人じゃないのよ

(そゆことそゆことそゆこと)

 

 

............ 

 

 

2020年12月某日

 

俺はモモに電話をかけた。

 

すると、いつものモモとは違った女の声が。

 

『もしもし?あんた誰?』

 

「モモに聞いてみなよ」

 

『(裏でモモに聞いている話し声)』

 

『モモも誰この人?って言ってるよ』

 

「なるほどね、てかお前が誰だよ」

 

『わ、私?モモの彼氏ですけど』

 

「そうなのね、お幸せに」

 

『もうモモに連絡するのやめて』

 

「分かった」

 

何となく理解した。

 

俺は「さよーなら」と一言LINEを入れてモモをブロックし、ブロックリストからも削除した。