午前4時、渋谷、センター街
さとえ(@satooooo_e)です。
9月某日
その日は友達と渋谷で夜遊びをしていた。
その友達というのも8月に渋谷の夜遊びで出会って、会うのは2回目だった。
つまり、夜遊び友達ということになる。
会うのは2回目なのに、なぜか俺たちはお互いを名前で呼び合っていた。夜遊び友達とは、そういうものである。
友達の名前を勇人とする。
23:00
とりあえずハチ公前でナンパする。
最初はサブカル系のそこまで可愛くない2人組にダル絡み。
「こんばんはー!」
勇人が元気そうに声をかける。
「こんばんは」
「お姉さんたち今何してるんですか?」
「いやなにもしてないです」
渋谷にはこういう女が多い。2人で来ているのに何もしていない。
「もしかして暇ですか?今からこいつと飲み行くんすけど、一緒に行きませんか」
「うーん......」
俺も何か話さないとと思い、適当に話す。
「お姉さんたち大学生?」
「はい」
「何年生?」
「1年生です。大学生ですか?」
「そうだよ。4年生」
「そうなんですね」
「でも最初見たとき正直14歳くらいに見えたわ」
「どっちがですか?」
俺は2人のうち可愛い方を指差す。
「え......」
なぜか可愛い方は立ち去り、それに続いて可愛くない方も行ってしまった。
「今の意味分からんかったなw」
「どうせあいつらナンパ待ちで好みの男が来るまで待ってんだろ。そんな可愛くなかったし」
一般的に1人で2人組をナンパするときは可愛くない方に声をかけ、可愛い方を突き放して嫉妬させるように接するのが当たり前であるが、2人で2人をナンパするときは最終的に1対1の状況を2つ作り出さなければならないので、あらかじめ自分が担当する子を相談しておく必要がある。要は、両方最低でも足切りラインを超えていなければならない。
次に、俺が1人で東急前にいる茶髪JDっぽい女に話しかける。
「こんばんはー」
「こんばんは」
「今待ち合わせですか?」
「そうです!」
「男すか?」
「いや、女友達ですw」
「マジすか!何人来ますか?」
「3人来ます!」
「そんなに!じゃあお姉さん含めて4人ってことですか」
「そうですねー」
「僕、友達と終電逃しちゃって2人なんすけど流石に2対4じゃキツいっすよね」
「ちょっと厳しいですねー」
「分かりました、じゃあまたどっかで会ったら飲みましょうw」
こんな感じでひたすらハチ公周辺にいる1人、または2人でいる女に声をかけまくる。
清楚風のOL。格好や喋り方はかなり清楚であるが、こんな時間に待ち合わせしている時点でたかが知れている。
かきあげギャル。後から友達が2人来て3人になるらしかった。友達にも聞いて飲みに行けるということになったが、勇人が顔グダを起こしたため放流。
髪を白に染めた顔がめちゃくちゃ整った女。声をかけるもガン無視される。見た目と態度が一致しすぎている。
無限に電話をしている女。そもそも声をかける隙すら与えてくれない。
24:00
計10人には声をかけた。今日は調子が悪い。
とりあえず、気分転換にセンター街のマクドナルドへ行く。裏メニュー.comというサイトのポテトS無料クーポンを使い、ポテトと水でタダ飯をキメる。日本では、ホームレスにでもなったらマクドナルドを回ってこれを使えば生き延びることができる。
「今日あんま釣れねえな」
「つかそもそも今日人少なくね?」
「確かに。なんか変だよな」
「何かイベントとかあるのかもな」
その日の渋谷は、いつもと比べて人がかなり少なかった。
俺達はポテトを食べ終え、少し休憩を挟んでセンター街に出た。外は雨が降り出していた。気温も涼しくなっており、季節が秋だということをふと思い出した。
キャップを被った韓国風の2人組。両方可愛い。
「こんばんは!」
勇人が話しかける。
「あっ大丈夫です」
リーダー格が弱い方の手を引っ張りながら逃げようとする。すかさず俺が口を挟む。
「いやいや、俺らの方が大丈夫だから」
「もうほんと大丈夫なんで」
「てか傘持ってる?」
「持ってるんで大丈夫です」
「俺ら持ってないから貰ってもいい?」
「自分で買ってください」
「どこに売ってんの?」
「そこに売ってますよ」
適当な方向を指さされる。
「分かった、ありがと!」
これが大人の対応である。
「まあでも今のは可愛かったな」
「深夜の方が可愛い女多い説あるわ」
「遊び慣れてるから垢抜けてるだけだろ」
それからもしばらくセンター街で声をかける。
釣れない。
すると、クラブAtomのキャッチに声をかけられ、フライヤーを渡される。
「なんかクラブ行きたくなってきたな」
「確かに」
「もうナンパとかどうでもいいから純粋に音楽楽しみに行こうぜ」
「いいよ。でもAtomは行きたくねえ」
Atomはナンパで有名な箱である。ゴミ箱だ。
「俺ハーレムのディスカウント持ってるからハーレムにしようぜ」
「ハーレムってどういう系?」
ハーレムは、名前は聞いたことあるが行ったことは無かった。
「Atomの横にあるんだけどHIPHOPの箱でかなりいいよ」
「じゃあ行こう」
俺達はセンター街を後にし、道玄坂にあるクラブハーレムへ向かった。
01:00
クラブの中は夜の渋谷よりも暗かった。ワンフロアで、奥行きがあり中央奥ではDJがHIPHOPを奏でている。
入った瞬間、かなり居心地の良い空間であると感じた。深夜に入ったにもかかわらず、人は多くもなく少なくもなく、Atomと違ってナンパ箱という印象は受けなかった。また、音量はちょうど声が通るくらいで、それもうるさすぎるAtomとは違っていた。バーカウンターで俺はスクリュードライバー、勇人はジントニックを頼み、ダンスフロアに行き音楽に合わせて体を揺らしていた。音楽は麻薬に近い。
しばらくすると、日本語ラップ界でかなり有名なラッパーがプライベートで訪れてきた。クラブにいる連中は気づいていないのか、慣れているのか分からなかったが、騒ぎ立てるようなことはなかった。勇人はいち早く発見し、如才なく一緒に写真を撮ってもらっていた。正直俺も一緒に入りたかったが、疲れていたので諦めた。
03:30
お互いに疲れたので俺達はクラブから出た。外はまだまだ暗い。この時間になると、夜勤終わりの女や、クラブ帰りの女がちらほら目立ち始める。始発まで1時間ほど時間があったので、暇つぶしに女の子に声をかけていくことにした。
コンサバ系の二人組。俺が声をかける。
「おはようございます!!」
「おはようございます」
「始発まで暇ですよね?」
「ひまー」
「一緒に飲み行きませんか?」
「えー奢ってよ」
社会人風の格好をしているのに学生が奢るのは流石に意味がわからない。というか、男にねだる女というのは性格がブスだ。いいと思われた女は勝手に奢られるものである。
「それは無理です」
「えー」
「じゃあ俺ら行くんで」
こちらから放流。まあ時間帯が時間帯だし治安が悪いのも仕方がない。
「つか、俺財布に1000円しかなかったからヤバかったわwww」
「お前早く言えよwww」
勇人は金欠だと言っていたが、流石にそこまでとは思っていなかった。逆にさっき奢る展開を選んでいたらどうなったんだろうかと若干自分の選択を後悔した。
深夜と早朝の狭間の渋谷は、歩いているだけで快適だった。昼は蒸し暑く、人でごった返している不快な街も静まり、聞こえるのはカラスの鳴き声くらい。ずっとこんな感じだったら良いのに、と思った。
04:00
ふとZARA前の横断歩道を渡ると、茶髪セミロングの上にキャップを被ったカジュアル系の子とすれ違った。
「今の子めっちゃ可愛かったな。ちょっと行ってくるわ」
確かに今日声をかけた子の中ではトップクラスに可愛かった。
「おはよ!」
勇人が声をかける。
「なんですかw」
イヤホンを取り、笑いつつ反応する。
「始発までまだ時間あるから飲み行かない?」
「いやそれはちょっと......」
「あと30分何するん?」
「うーん。適当にぶらぶらしようかと」
「じゃあ30分だけ一緒にいようよ!」
「えー、じゃあ30分だけね」
そういって3人はまだ空いていた居酒屋へ入った。
彼女はあまり声をかけられるのに慣れていない様子だった。聞いてみると、2週間前に地方から上京して来たばかりということだった。夜勤終わりで声をかけられてついて行ったのは初めてだという。だが、大抵の女はそう言う。自分を軽く見られたくないから。俺は直感で彼女が2人に食いつきがあることをなんとなく感じていた。
彼女のふとした表情が戸田恵梨香に似ていたので、恵梨香とする。
俺達は単純にお腹が空いていたので、ささみと水を恵梨香の分も頼んだ。
「女の子連れ出しておいてお酒じゃなくて水なんだwww」
「そういう男はマジでダメだから。やめとけよ」
ささみを食べながら俺が言う。
「東京っていつもこんな感じなの?」
「いや、俺らはそんな頻繁にこういうことしてないよ。今日はたまたま」
東京出身東京育ちの勇人が当たり前のように嘘を吐く。勇人は抜群に口が回る。高校生の時からクラブに通っていただけある。
「てか、恵梨香ちゃん何歳なの?」
「今年で21歳だよ」
「同じじゃん!俺も今年で21だよ」
恵梨香は俺と同い年だった。さらに、誕生日もかなり近いということで一気に親近感が湧いた。女と和む時は共通項を見出して警戒を解くのが鉄則であるが、恵梨香を目の前にその定石をなぞることしかできない自分が悔しかった。いつの間にかそんな感情が芽生えていた。
人と接していると合う合わないは瞬時に判別できるが、恵梨香は紛れもなく居心地が良い、少数派のタイプの子だった。
基本的に、人間関係において片方が感じた相性というものはもう片方も同じように感じることが多い。たわいもない話をしているうちに、恵梨香も勇人より俺に対して食いつきを感じているということが見て取れた。
04:30
約束通り、30分後に俺達は居酒屋を出た。
「ちゃんと30分で出るんだねwww」
「約束守らない男はゴミだから」
「確かにww」
「てか、このあとマジで帰るの?」
「うーん、なんか帰るの面倒になってきたなあ」
「え、じゃあせっかくだしカラオケ行こうよ!」
「いいよww」
そうして3人はセンター街にあるカラオケへ向かった。道中、歩いている時に恵梨香の歩調が明らかに俺に合っているのが分かった。勇人も多分それに気づいていたが、態度には表れていなかった。俺は2対1でいるときは女に手は出さないと決めていたので、もどかしい気持ちだった。というよりも、そういう気持ちもあったが、口説き落とす云々以前に恵梨香と、そして勇人ともっと一緒にいたいという感情の方が大きかった。それくらい3人でいて楽しかった。
05:00
コンビニで軽食を買ってカラオケに入る。
受付で勇人が店員に値引き交渉をしてくれたおかげで、かなり安く入ることができた。本当に口の上手い男である。
個室に入ると、勇人は恵梨香の横に座り、テーブルを挟む形で俺が座った。
一息つくと眠気が襲ってきた。勇人と恵梨香も少し眠いと言っていたので、俺は半分無理やりに合法的トビ方ノススメを入れた。
2人とも知っていたようで、眠気は一気に飛び去り、3人でブチ上がった。歌い終える頃には早朝にもかかわらず、完全に深夜テンションになっていた。
次に勇人が曲を入れようとする。
「俺バラードしか歌えないわ」
「どういうことだよww」
相変わらず面白い。そう言えば、勇人とカラオケに来たのは初めてだったのでどんな曲を歌うのか俺も気になった。
勇人が入れた曲は、EXILEの道。ブチ上がった後にガチのバラードを入れたことに俺と恵梨香は笑った。
勇人の歌はめちゃくちゃ上手かった。あまり上手くない風を出しておいて実は上手い、というのを鉄板でやっているんだろうなあとか考えていると曲が終わっていた。
次は恵梨香の番。どんな歌を歌うのだろうか。
カラオケというものは面白い。なぜなら、自分の内面がモロにさらけ出されるからである。曲は、その人の自分の内なる思いや理想、反抗を歌詞や旋律で直接反映するので、本当に内面について良く知りたい人がいたら、会話するよりiPodを盗み見たほうが早い。
今、俺は恵梨香と会うのが初めてでありながら彼女の内面を直に知れる機会に恵まれている。
彼女が選んだ曲は、SILENT SIRENの八月の夜だった。
あれ、こんな可愛らしい曲歌うんだ、と思ったのと同時に、外見はそう見えないけど意外と心は乙女なのかなとか思ったりした。
歌はかなり上手かった。ただ音程に乗せて高得点を取る機械のようなタイプではなく、俺が好きな、歌詞にしっかりと感情を込めて歌うタイプだった。今まで前者のような子とばかりしかカラオケに行ったことがなかった自分を薄く感じた。
その後も俺、勇人、恵梨香の順番で歌った。
恵梨香が歌う曲は意外にも乙女心を歌った曲が多かった。もちろんそうでない曲も歌っていたが、やはり何かしらの秘めたものを感じて益々知りたい思いが強まっていった。
西野カナのif、中島美香の雪の華、RADWIMPSの実況中継......。
盛り上がって来た頃に、俺と恵梨香は米津玄師×DAOKOの打上花火をデュエットした。最初はにわかだから分からないとかお互い言いつつも、初見殺しの部分を歌えていることに爆笑した。
カラオケはフリータイムで入ったので11時まで続いた。後半はひたすらに眠気との戦いだったが、11時になってほしくなかった。一生この時間が続けばいいのにと思ったが、楽しければ楽しいほど時間は過ぎるのが早いものである。
最後に3人で湘南乃風の睡蓮花を声を枯らしながら歌いきり、俺達は会計を済ませて外へ出た。
11:00
昼の渋谷は、深夜〜早朝とは打って変わって暑かった。快適だった街は、いつもの不快さを取り戻していた。恵梨香が暑いと言いながら着ていた羽織を脱いでいたのが印象に残っている。
恵梨香が15時から新宿で予定があるとのことなので、一緒に昼飯を食べることになった。俺達は駅前のガストへ向かった。
もう既に3人とも疲れていた。俺と勇人は徹夜だし、恵梨香は2日間寝ていないとのことだった。うとうとしながら飯を食べ、時折悟りを開いたかのように誰かが口を開き、それに関する話をするといった状況だった。昼ということもあり、話題は真面目な内容が多かった。これからの進路について、社会で求められる能力について、就職について。俺達と恵梨香は会ってまだ7時間しか経っていないとは思えないほど打ち解けていた。はるか以前から知り合いであるかのような距離感だった。
恵梨香は自分のことを馬鹿だと言っていたが、そんなことはなかった。自分のことを学力的に馬鹿だからといって全てにおいて頭が悪いと思い込む人を俺は何人も見てきた。実際は、勉強だけできる人よりも人間的な頭の良さで言ったら上の人の方が多い。恵梨香はそういうタイプだった。俺は日本の学歴偏重主義の国民に対する無意識な刷り込みを恨んでいるが、こういう時にこそ強く感じるのであった。俺は勉強だけできる人より、人間的に頭が良い人の方が好きだ。悔しい。
眠気であまり記憶がないが、他には出身地の話をしたり、好きな・嫌いな食べ物についての話をした。そうこうしているうちにタグホイヤーの短針は2を指していた。
14:10
3人はLINEを交換してハチ公改札で別れた。勇人は金欠のため原宿まで歩いてから電車で帰るとのことだった。俺と恵梨香は電車の方面が同じだったので、途中まで2人で帰ることになった。
勇人に別れを告げる。
「じゃあな、また何かあったら頼むわ!」
「勇人くん気をつけてね!」
「おう、じゃあな!」
俺と恵梨香は埼京線のホームまで歩く。少しでも長く一緒にいたかったから、あえて山手線は使わせなかった。
「渋谷の埼京線ホームってめっちゃ遠いんだよね」
「ほんとだww 山手線とどっちが早いんだろう」
「1駅だし多分埼京線のほうが早いよ!」
果たしてこれは許される嘘なのだろうか?
「そうなんだ!てか新宿南口ってどこらへんだっけ、バスタの所だよね?」
「そうそう!てか目的地までいける?」
「初見だから分からないけど、多分大丈夫そう!」
「絶対嘘でしょww どうせ今日暇だし一緒に行ってあげるよ」
「ほんとに!マジごめんじゃん!」
埼京線の中では互いに眠すぎて会話はあまりしなかったが、まどろみの中の沈黙も心地よいものであった。だが俺は唯一、恵梨香の身長という勇人が知らない情報を手に入れることができた。
新宿駅に着くと、恵梨香は全く駅内の構造を把握していなかったので笑った。1人だったら確実に時間に間に合わなかっただろう。
俺は先頭を歩いて南口改札を抜け、無事に目的地まで案内した。池袋、新宿、渋谷が得意分野でよかった。
14:45
恵梨香が礼を言う。
「ここまでしてくれて本当ありがとね!」
「うん、じゃあ頑張ってね!バイバイ」
「ありがと!またね」
長い1日が終わった。そういえば、普通の人はこの時間に帰って寝るなんてことはないよななどと考えつつ、自分は本当に特殊な環境にいるのだということを再認識した。
それにしても、恵梨香とはもう一度2人で会いたいと思った。一緒にいて居心地のいい人は俺の場合、10人に1人いるかいないか。居心地がいいということは気を遣わなくて良いということと表裏一体である。もちろん最低限の気は遣ったが、ここまで合う人はなかなかいなかった。
帰りの電車では、眠すぎて最寄駅を1つ寝過ごした。どうしようもない虚無感と、怠さが身体を襲った。
家に帰ったらシャワーを浴びてすぐに寝よう。
20:00
暗闇の中で俺は目を覚ますと、iPhoneのアラームを止めた。ふと通知を見ると、恵梨香からLINEが来ているのを確認した。
「終わったよー 今日はありがとね!」
俺は多幸感に包まれた。LINEが来るだけで嬉しくなるなんてメンヘラか?と自分にツッコミを入れつつも返事を返す。
「こちらこそ! てかまた会お!」
しかし、何日経ってもその文面に返事が返って来ることはなかった。
なぜだろうか。原因が分からなかった。もしかすると、相手は居心地がいいとは感じていなかったのかもしれない。人間関係において、片方だけ居心地がよくなるパターンも稀にある。ナンパだったから駄目だったのだろうか。俺はナンパで出会おうが出会い系で出会おうが学校で出会おうが、関係ないと思う。出会い方が違うだけで、まともな人種はどこにでもいるし、まともじゃない人種もどこにでもいる。わざわざそこに固執する日本人の習性、価値観を俺は憎んだ。悔しかった。
”オンリーワン中毒”という言葉がある。
1人の女に固執しすぎると、その人のことばかり考えてしまい周りが見えなくなるという現象である。唯一のこの現象への対処法は、複数の女にアプローチをすることで依存を分散させることであると言われている。すると、最終的にもっといい人に出会い、あの時の自分は馬鹿だったと気付かせてくれる。
だが、この対処法は堂々巡りであるように俺は思う。もっと上、もっと上と目指していくと本当にキリがない。結局は妥協が必要になる。
そう考えると、一度オンリーワンになった人は紛れもなくその時のオンリーワンであり、何者にも変えられない存在ということに気づかされる。
出会いと別れは必ずセットである。なぜなら、人間は最終的に死ぬ動物だから。どんなに別れたくない2人がいたとしても、最終的には死別する。友達や恋人になるというのは、その別れをなるべく遠い未来に置きましょう、という意味を表すということを誰かが言っていた。まさしくその通りであるように思う。
24時間にも満たない別れであったが、夏から秋へと変化していく季節の中でどう考えてもいい思い出ができたことは確かである。少なくとも、家に引きこもっているよりはマシであったと自分に言い聞かせて、俺は人生のタスクをこなす毎日に戻った。