さとえブログ

ノンフィクション/エモい/現代っ子哲学

池袋

――二月某日。

 

西口。ロータリー。飲み屋街。黒光りしたスーツを着た仕事帰りのサラリーマンが群れをなして消えていく。また現れる。こちらの視界から拒むと、交番。ポリスはまだ働いているのか分からないが、ガラス越しに無秩序を見る。一瞬表情を伺い、またこちらから外す。

 

あまりにも寒いのだけれども、帰る気にもならないので、とりあえず地下道に向かう。

すれ違う一瞬前に人と目を合わせる。自己嫌悪に陥るので面白く無い。

遠くから来る人にずっと目線を合わせ、こちらに目線を合わさせるゲーム。勝率は五分五分。面白く無い。

 

いつの間にか外に出ていることに気づく。

地下道をずっと進んで、抜けると東口に出ることを忘れていた。

 

十年前の夏、両親に手を繋がれて、ここを通ったことがある。左手は父親、右手は母親のもの。

私は夏なのに涼しく、夏至だというのに暗いこの道をはやく抜けたかった。長かった。東口は、遠かった。

 

抜けると、ビックカメラ。永遠の東口は、星よりもネオンが眩しい。西口と東口で気温の変化がないことを確認してから、マフラーで口元を隠し、サンシャイン通りへと進む。

 

学生。派手な服装の女。サラリーマンの群れは、いない。西口では追われる側だったのに。

東口に無性に腹が立ってきたので、早歩きでサンシャイン通りに辿り着く。ルノアールから東急ハンズまでは、今でも長く感じる。地下道とどっちが長いのだろうか。

 

久遠のサンシャイン通り。カップルとすれ違う。ブルガリの香水。ブルガリに思い出がなくてよかった。

すぐに、ディオールのソヴァージュ。一瞬振り返る。

喧騒で誰なのかわからないので、ルノアールまで早戻りする。終点を東急ハンズへと設定し、ゆっくり歩く。

 

ブルガリ。

 

――ディオールは幻だったのか?

 

そういえば、幻覚や幻聴という言葉は存在するが、幻嗅は聞かないよな、とか妙に冷静になりつつも、いつの間にか東急ハンズ

 

ルノアールに裏切られた気分になり、復讐しに戻る。

ブルガリにすら失恋していることに気づいた私は、幻嗅が恋しくなってきた。

 

東口。西武百貨店前。復讐すら裏切ってしまった。

 

西武のディオールでソヴァージュのテスターを2プッシュ。香りが消えないうちに帰らなければ。

連絡を取りたい人がいたことを思い出し、LINEを開く。開いた瞬間に忘れる。

 

今のところは、これから恋人の家には行かずに、そのまま家に帰る予定である。